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研究者総覧「情報知」

メディア科学専攻

氏 名
工藤 博章(くどう ひろあき)
講座等
知能メディア工学講座
職 名
准教授
学 位
博士(工学)
研究分野
生体機能計測・応用 / ヒューマンインタフェース

研究内容

人間の情報処理機能のモデル化と応用
人間は、優れた情報処理機構を備えている。そのような情報処理機構を解明していくことは、人間自身の仕組みを知るという科学的探求の面からは、もちろんのこと、その仕組みを手掛かりにして、工学的に応用することが期待されている。
人間の情報処理機能を模倣することによって、学習機械として新たな手法の発見を得ることや、また、人間の特性を考慮することによって、「人間に優しいインタフェース」の設計開発などの基礎データを提供することが可能となる。
近年の電子計算機の発展によって、生体機能を計測する方法も変化が生じている。従来の計測法よりも、刺激の提示法や記録法等で改善が見られ、従来では、不明だった点も徐々に明らかになってきている。
これまでに、生体機能計測のための独自の実験システムを設計し、情報処理過程のモデル化と、これの工学的応用に取り組んできた。
以下に、これまでの取り組みについて説明する。
◆奥行き知覚における小さな眼球運動により生じる視差(ocular parallax)の役割
眼球運動の役割の中で、近年になって提唱されてきたものの一つが眼球運動で生じる視差の生成である。しかしながら、これは通常の観察では見られないような大きな視線の移動を行った際に確認されている。本テーマは、通常観察時に見られるような移動の大きさでの効果を検討することを行なったものである。眼球運動の計測を伴った心理実験により、視差を利用していることを示唆するような結果を得た。このことより、固視微動に見られるような小さく不規則な動きをしている眼球の動きが、実際に、奥行きを知るために行われていることを示唆しているものと考えられる。
◆カメラの微小回転運動で生じる視差による奥行き計測を利用したコンピュータビジョンシステム
本テーマは、上記のテーマによる心理実験結果の工学的応用として、奥行き情報呈示装置として検討を行なったものである。固視微動のように、カメラの微小回転運動を繰り返すことによって、奥行き情報を得ることを行なった。カメラは、奥行きを計測するために、注視するのではなく、小さい移動運動を行ない、個々の小さい視線移動による奥行き演算の結果を利用し、視線移動を繰り返して、多数の像を統合する手法を採り入れている。
◆スリット視における知覚現象の定量的測定
本テーマは、スリットの背後を通過するように移動する物体に対して、スリット越しに観察する時に、移動する物体の全体像が知覚され、また、大きさが縮小して知覚(アノーソスコピック知覚)される現象に対して、定量的に知覚量を測定する実験システムを開発して、知覚現象のモデル化に取り組んだものである。眼球運動計測も行ない、従来のモデルの検証を行ない、従来モデルの改良となるモデルを提案した。現在は、大画面での呈示時の知覚などの検討を進めている。
◆視覚の誘導場モデルの多次元化
本テーマは、生理学、心理学の分野で行われてきた実験結果に基づいた基本的特性である「視覚の誘導場理論」の工学的応用を目指すものである。従来のモデルは白黒2値のモデルであり、日常生活で目にする階調・カラー画像等にはそのまま適用できない。そこで、さまざまな条件下で視覚の誘導場の特性を計測し、モデルを拡張化する課題に取り組んでいる。これまでに、モデルを考慮する上で、線幅の考慮も必要であることを指摘している。現在は、色彩の効果について検討を進めている。
このように、人間の情報処理機構の解明は、注目されている研究分野である。これまでの成果を発展させ、「人間に優しいインタフェース」の創造に寄与していきたい。計測技術はさらに発展しており、より精緻なモデル化が実現できていくものと考えられる。また、これまでの取り組みでは、主に、視覚を対象として研究を行ってきたが、人間は、他の重要な感覚機構を有しており、これらの機構の、あるいは相互作用における情報処理機構の解明も重要な課題であると考えている。
視覚の誘導場(線幅の効果)

視覚の誘導場(線幅の効果)

経歴

  • 1996年名古屋大学大学院工学研究科博士課程(後期課程)修了。同年名古屋大学工学部助手
  • 1999年名古屋大学大学院工学研究科講師
  • 2000年名古屋大学情報メディア教育センター助教授
  • 2003年名古屋大学大学院情報科学研究科助教授。平成7年度日本学術振興会特別研究員(DC)

所属学会

  • 映像情報メディア学会
  • 電子情報通信学会
  • 電気学会
  • IEEE

主要論文・著書

  1. 「カメラの回転運動を事前知識とした奥行き推定手法の提案」電気学会論文誌C,Vol. 127,No. 6, pp.904-913(2007).
  2. 「重なり合う物体の輪郭線抽出 -頂点組み合わせ決定と輪郭線生成の改良-」電気学会論文誌C,Vol. 130,No. 3, pp. 483-489(2010).
  3. 「図形のネガ/ポジ表示による視覚の誘導場の効果~上下弁別閾の測定~」映像情報メディア学会誌,Vol. 61,No. 4, pp. 543-549(2007).