研究者総覧「情報知」
複雑系科学専攻
- 氏 名
- 吉田 久美(よしだ くみ)
- 講座等
- 生命情報論講座
- 職 名
- 教授
- 学 位
- 博士(農学)
- 研究分野
- 天然物化学 / 生物有機化学 / 植物科学
研究内容
生命情報を最前線で担う有機分子の構造と機能の解明
研究概要
生命は複雑系であり、そのシステムにおいては、多くの有機分子が相互に情報交換をしながら機能を担う。ゲノムに書き込まれた遺伝情報は、タンパクへと翻訳され、タンパクはさらに高分子、中分子、低分子有機化合物を生合成して命を維持する。我々のグループでは、その最前線で働く有機化合物の構造と機能解明、さらには、それらが互作用する分子機構の解明を目的に、化学を基盤とした研究を行なっている。また、従来困難とされてきた配糖化フラボノイド類、アントシアニン類の合成研究を行い、その機能性材料への応用展開も目指している。
1.花色発現機構の解明研究、植物色素構造と機能研究
花色のほとんどは、フラボノイド系色素のアントシアニンによる。アントシアニンの発色団は天然には数種しか存在せず、また、抽出したアントシアニンは容易に退色するにもかかわらず、生きた花弁細胞中では安定に赤、紫・青色と多彩な色を発現する。この「花色変異」と「安定化」について、これまで数々の研究がなされ、pH説、金属錯体説、コピグメント説、自己会合説など様々な説が提唱された。さらに、疎水結合に基づくアントシアニジン環の分子会合がこれらを包括する原理として提出され、化学的に実証されてきた。しかし、いずれもin vitroの成果である。花弁組織を観察すると、アントシアニンは通常、表層細胞の液胞内に局在化し、花色発現とは、その表層の限られた細胞内で起きる生命現象であることがわかる。機器分析の進歩により、強酸性で抽出したアントシアニンの化学構造は、現在容易に決定できる。しかしそれは、生理条件下の細胞内のアントシアニン分子の真の姿を捉えたものではない。我々の研究室では、in vivoとin vitroをつなぐ、生きた細胞内での花色発現解明を目指している。
(1)アジサイの花色変異の解明
アジサイ(Hydrangea macrophylla)の花色は、環境や時間経過により容易に変わることが知られる。紫色のアジサイは、隣り合った細胞一つ一つの色合いが異なりモザイク状をすることから、同じゲノムを持ちながら何らかの因子により表現型である花色が変異していることがわかる。一細胞化学分析により、アルミニウムの量と青色化がリンクしていることを解明し、世界で初めて、アジサイよりアルミニウム輸送体遺伝子を取得し、その機能を明らかにした。
(2)自己組織化超分子金属錯体色素の研究
ツユクサやヤグルマギクの青色花弁は、アントシアニンとフラボン分子および金属イオンから成るメタロアントシアニンと呼ばれる超分子色素によって発色する。このようなタイプの色素を、サルビアやネモフィラの青色花弁からも見いだした。その発色機構やキラルな自己組織化の機構解明を実験化学と計算化学とで進めている。
(3)空色西洋アサガオの花色変化の解明
空色西洋アサガオ(Ipomoea tricolor cv. Heavenly Blue)の花弁は、着色液胞pHの開花に伴う上昇により、ツボミは赤紫色で開花時に青色と変化する。これは、液胞膜上に存在する種々のポンプ、輸送体の統合的な働きによると考え、この現象の解明を目指した。開花ステージの異なる花弁から液胞膜小胞を調製し、膜状のポンプ、輸送体の解析を行なっている。アサガオは開花時にプロトンポンプ類とプロトン-ナトリウムイオン対向輸送系が統合的に働くことにより、液胞pHが上る機構が存在し、これにより青色となることを明らかにした。
(4)小豆種皮色素の構造解明
小豆種皮には、赤褐色のタンニン系色素と紫色のアントシアニン系色素が含まれると1930年代に報告がる。しかし、実際に分析したところ、アントシアニン系色素はほとんど含まれず、構造未知の紫色色素が存在し、これが小豆餡の色を担うことを明らかにした。現在、この色素の単離と構造解明を行っている。
2.生理活性フラボノイド類の合成と機能性研究
生命は複雑系であり、そのシステムにおいては、多くの有機分子が相互に情報交換をしながら機能を担う。ゲノムに書き込まれた遺伝情報は、タンパクへと翻訳され、タンパクはさらに高分子、中分子、低分子有機化合物を生合成して命を維持する。我々のグループでは、その最前線で働く有機化合物の構造と機能解明、さらには、それらが互作用する分子機構の解明を目的に、化学を基盤とした研究を行なっている。また、従来困難とされてきた配糖化フラボノイド類、アントシアニン類の合成研究を行い、その機能性材料への応用展開も目指している。
1.花色発現機構の解明研究、植物色素構造と機能研究
花色のほとんどは、フラボノイド系色素のアントシアニンによる。アントシアニンの発色団は天然には数種しか存在せず、また、抽出したアントシアニンは容易に退色するにもかかわらず、生きた花弁細胞中では安定に赤、紫・青色と多彩な色を発現する。この「花色変異」と「安定化」について、これまで数々の研究がなされ、pH説、金属錯体説、コピグメント説、自己会合説など様々な説が提唱された。さらに、疎水結合に基づくアントシアニジン環の分子会合がこれらを包括する原理として提出され、化学的に実証されてきた。しかし、いずれもin vitroの成果である。花弁組織を観察すると、アントシアニンは通常、表層細胞の液胞内に局在化し、花色発現とは、その表層の限られた細胞内で起きる生命現象であることがわかる。機器分析の進歩により、強酸性で抽出したアントシアニンの化学構造は、現在容易に決定できる。しかしそれは、生理条件下の細胞内のアントシアニン分子の真の姿を捉えたものではない。我々の研究室では、in vivoとin vitroをつなぐ、生きた細胞内での花色発現解明を目指している。
(1)アジサイの花色変異の解明
アジサイ(Hydrangea macrophylla)の花色は、環境や時間経過により容易に変わることが知られる。紫色のアジサイは、隣り合った細胞一つ一つの色合いが異なりモザイク状をすることから、同じゲノムを持ちながら何らかの因子により表現型である花色が変異していることがわかる。一細胞化学分析により、アルミニウムの量と青色化がリンクしていることを解明し、世界で初めて、アジサイよりアルミニウム輸送体遺伝子を取得し、その機能を明らかにした。
(2)自己組織化超分子金属錯体色素の研究
ツユクサやヤグルマギクの青色花弁は、アントシアニンとフラボン分子および金属イオンから成るメタロアントシアニンと呼ばれる超分子色素によって発色する。このようなタイプの色素を、サルビアやネモフィラの青色花弁からも見いだした。その発色機構やキラルな自己組織化の機構解明を実験化学と計算化学とで進めている。
(3)空色西洋アサガオの花色変化の解明
空色西洋アサガオ(Ipomoea tricolor cv. Heavenly Blue)の花弁は、着色液胞pHの開花に伴う上昇により、ツボミは赤紫色で開花時に青色と変化する。これは、液胞膜上に存在する種々のポンプ、輸送体の統合的な働きによると考え、この現象の解明を目指した。開花ステージの異なる花弁から液胞膜小胞を調製し、膜状のポンプ、輸送体の解析を行なっている。アサガオは開花時にプロトンポンプ類とプロトン-ナトリウムイオン対向輸送系が統合的に働くことにより、液胞pHが上る機構が存在し、これにより青色となることを明らかにした。
(4)小豆種皮色素の構造解明
小豆種皮には、赤褐色のタンニン系色素と紫色のアントシアニン系色素が含まれると1930年代に報告がる。しかし、実際に分析したところ、アントシアニン系色素はほとんど含まれず、構造未知の紫色色素が存在し、これが小豆餡の色を担うことを明らかにした。現在、この色素の単離と構造解明を行っている。
2.生理活性フラボノイド類の合成と機能性研究
植物において非常に重要な二次代謝物であるフラボノイド類は、ヒトへの生理機能が近年大変興味を持たれている。中でも配糖化フラボノイドの合成は、これまでも有用な実用的合成方法は確立していない。この点に注目し、骨格への直接配糖化反応を開拓し、これを用いてフラボンおよびアントシアニン、さらには重合体フラボノイドであるプロシアニジン類の合成研究を行なっている。同時に、豆種皮に含まれる生理活性重合体の単離と構造解明も進めている。
(1)フラボノールからアントシアニンへの変換反応
フラボノール類を金属還元すると一段階でアントシアニンへと変換できることは、20世紀初頭から報告されてきた。しかし、その収率は20-30%程度と低く、再現性に問題があった。この反応機構の詳細を解析することにより、80%以上の収率で変換する方法を見いだした。本法を種々のフラボノール、フラボン類に展開することで、多様なアントシアニンの合成を実施している。
(2)アントシアニン類を用いた色素増感太陽電池研究
太陽エネルギーは、石油にかわる持続可能なエネルギー源として重要視されている。色素増感太陽電池は、シリコンに替わる特徴と可能性を持つものとして注目される。現在、アントシアニンおよびその誘導体を用いた、色素増感太陽電池の研究を行っている。
(1)フラボノールからアントシアニンへの変換反応
フラボノール類を金属還元すると一段階でアントシアニンへと変換できることは、20世紀初頭から報告されてきた。しかし、その収率は20-30%程度と低く、再現性に問題があった。この反応機構の詳細を解析することにより、80%以上の収率で変換する方法を見いだした。本法を種々のフラボノール、フラボン類に展開することで、多様なアントシアニンの合成を実施している。
(2)アントシアニン類を用いた色素増感太陽電池研究
太陽エネルギーは、石油にかわる持続可能なエネルギー源として重要視されている。色素増感太陽電池は、シリコンに替わる特徴と可能性を持つものとして注目される。現在、アントシアニンおよびその誘導体を用いた、色素増感太陽電池の研究を行っている。
経歴
- 1982年 名古屋大学大学院農学研究科博士課程前期課程修了
- 1982年-1988年 天野製薬株式会社中央研究所勤務
- 1988年-2000年 椙山女学園大学生活科学部助手
- 2000年-2004年 名古屋大学大学院人間情報学研究科助教授
- 2004年- 名古屋大学大学院情報科学研究科助教授
- 2007年- 名古屋大学大学院情報科学研究科准教授
- 2010年- 名古屋大学大学院情報科学研究科教授
所属学会
- 日本農芸化学会
- 日本化学会
- 日本植物生理学会
- 日本家政学会
- 日本食品科学工学会
- 日本調理科学会
- 日本海水学会
- 日本植物学会
- グループポリフェノール
主要論文・著書
- Chemistry of Flavonoids in Color Development. In Recent Advances in Polyphenol Research, Volume 3. Wiley-Blackwell Publishing (2012)
- Tonoplast- and Plasma Membrane-localized Aquaporin-family Transporters in Blue Hydrangea Sepals of Aluminum Hyperaccumulating plant. PLOS ONE, 7, e73189 (2012).
- 色素の種類「植物の分子育種学」(鈴木正彦編・著)講談社、東京、(2011).
- Blue Flower Color Development by Anthocyanins: from chemical structure to cell physiology. Nat. Prod. Rep., 26, 884-915 (2009).
- 花の色とアントシアニン「アントシアニンの科学¬ 生理機能・製品開発の新展開—」(津田孝範、須田郁夫、津志田藤二郎編著)建帛社、東京、pp.47-73 (2009).
- Cause of Blue Petal Colour, Nature, 373, 291 (1995).
- Structure Determination of Commelinin from Commelina communis; Nature, 358, 515-518 (1992).