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研究者総覧「情報知」

情報システム学専攻

氏 名
村瀬 勉(むらせ つとむ)
講座等
情報ネットワークシステム論講座
職 名
教授
学 位
博士(情報科学)
研究分野
高度情報ネットワーク / QoS制御 / 輻輳制御 / 通信品質 / 無線ネットワーク
村瀬 勉

研究内容

高品質な情報ネットワークとQoS・輻輳制御

本研究室では、スマート社会実現のための安全安心ネットワークの構築技術を研究しています。安全安心なコミュニケーションのためには、次の要素が重要になります。プライバシーや個人情報など秘密情報の制御管理、快適な通信を行うための輻輳制御、常時ブロードバンド接続を可能とするネットワーク構成法および制御法。これらを実現するために、具体的に次のような研究を行っています。
【1:オーバレイネットワークを用いた品質制御】ネットワークは、できるだけ汎用のアプリケーションに適するように作るべきですが、一方で、アプリケーションの品質要求はアプリケーションごとに大きく異なります。たとえば、ライブ映像配信では、遅延が重要な品質要求です。一方、ファイル転送では、スループットが重要な品質要求です。しかしながら、物理的なネットワークを、個々のアプリケーションごとに最適に構築することは(コスト面で)困難です。そのため、たとえると、最大公約数的なネットワークおよびネットワーク制御を導入せざるを得ません。現在のインターネットは、KISS (Keep It Simple and Stupid) の原理に基づき、前述の最大公約数的なネットワークを構成しています。そのため、個々のアプリケーションを最大限活用するために、このインターネットを用いて、オーバレイネットワークを作ることが重要になります。本研究室では、オーバレイネットワークを用いて、様々なQoS要求に応えるオーバレイネットワーク制御技術を開発しています。これにより、たとえば、東京~大阪間では、最大でも20Mbps程度のスループットしか出せなかったTCP通信を100Mbps以上に改善することができました。
【2:無線LANの品質制御】身近で使う無線LANは、簡単に使える一方で、うまくチューニングしないと、快適な通信ができないという特徴があります。特に近年、モバイルルータを持ち歩く人やテザリングを用いる人が多くなりました。その結果、無線LANシステム(アクセスポイントAPと端末)が移動し、時には多くの無線LANが1カ所に集中し、電波リソースを共有するということが起こっています。ところが、従来固定で使われることを前提として定められた標準仕様では、このような「多数の近接した無線LANシステム」における通信品質の低下を防ぐことができません。本研究室では、このような状況でどのような品質特性が得られるかを、シミュレーションおよび実機を用いて評価し、その特性を明らかにして、好ましい無線LAN利用法を提唱しています。
ネットワークの利便性を高める方法として、端末間通信を用いるインフラレス通信方法があります。従来よりモバイルアドホックネットワーク(MANET)や車車間のMANETであるVANETなどの技術があり、ルーティングなどの研究が進んでいました。本研究室では、端末間通信に具体的に無線LANやLTE技術を用いたときに、発生するキャプチャエフェクトやPerformance Anomalyといった様々な現象を考慮して、端末間通信の通信品質を評価しています。さらに、高速に移動する車車間通信や、端末密度のダイナミックレンジが広い歩車間通信など、これまでの端末間通信とは大きく異なる端末特性を持つシステムの解析により、M2MやIoTといったモノのインターネットにおける基礎的な通信品質の評価も行っています。
【3:ディペンダブルネットワーク】ネットワークがライフライン化した今日、ネットワーク無しでは成り立たないシステムが多く存在します。そのような状況では、ネットワークを攻撃されると、非常に困ったことになりますが、そのような攻撃は現実的に数多く存在し、ネットワークの安全安心の脅威になっています。たとえば、広域サービス不能攻撃(DDoSアタック)という攻撃では、非常に多くの送信端末が1つの受信端末にデータを送ることで、受信端末あるいは受信端末の通信回線をマヒさせることを試みます。これは、攻撃元の検出が技術的に難しいだけではなく、攻撃を止めることも非常に難しいという問題があります。本研究室では、検出を多段階に行うことで、これを解決する手法を考えており、検出にインバリアント解析を用いることで、検出精度を大きく向上させることができました。
一方、攻撃ではなくても、ネットワークに非常に大きい負荷を与えることで実質攻撃と同じようなことを引き起こすことも考えられます。たとえば、仮想計算機(VM)が、データセンター間を移動する(migration)する場合には、数百メガ~数十ギガバイトのデータ量を転送することになり、ネットワークに非常に大きな負荷がかかります。しかしながら、シンクライアントやネットワーク対戦ゲームなどのように、そういった機能を用いるユーザの場所にVMが移動することで、それらのユーザの通信品質は飛躍的に高まります。従って、できるだけネットワークに負荷をかけないようなVMの移動方法が臨まれます。本研究室では、ネットワークへの負荷とVM移動の利便性を両立させるような、VMの最適移動制御について研究しています。
【4:ユーザ移動制御】従来のネットワーク制御技術において、制御方式が成熟し、大きな改善が望めなくなってきました。そこで、これまで制御対象ではなかったユーザも制御対象にする研究を行っています。これは制御できるパラメータ次元を増やすことであり、あらたな次元のパレート最適ネットワークを構成することでもあります。具体的な制御としては、A地点からB地点に移動するときに、最短距離ではなく、通信での満足度も含めた最適経路を用いて移動するという制御(Longcut route mobility)があります。たとえば、ハンドオーバにより無線LANが継続的に通信可能な経路で移動することになります。さらに、欲しいコンテンツをあらかじめ経路上に先読みして(proactive fetch)配備することで、非常に効率的に通信を行うことが可能になります。また、別の制御として、APにユーザが近づく、あるいはテザリングやポータブルAPを持つユーザが他のユーザに近づくといった制御が考えられます。実際には、あえて移動することに使われるエネルギー・時間などのコストと通信品質の向上のトレードオフを考慮して、最適にユーザを誘導します。



経歴

  •  

    1984

    3

    大阪大学基礎工学部情報工学科卒業 

    1986

    3

    大阪大学基礎工学研究科情報工学専攻 博士前期課程修了

    1986

    4

    NEC 入社  中央研究所C&C研究所 所属

    1992

    7

    NEC 中央研究所 主任

    1999

    7

    NEC C&Cメディア研究所 主任研究員

    2004

    3

    大阪大学大学院 情報科学研究科 博士後期課程 修了 博士号(情報科学)取得

    2012~2015

    4

    東京工業大学大学院 情報理工学研究科情報環境学専攻(機械系)
    客員教授  大学院での講義および大学院学生の研究 主指導教官

    2015~現在

    4

    名古屋大学 情報基盤センター 教授   情報科学研究科 教授兼任

所属学会

  • 電子情報通信学会フェロー
  • IEEE正員

主要論文・著書

  1. Tutomu Murase, “Burstserver Architecture for ATM Wide Area Networks,” IEEE Grobal Communications Conf (GLOBECOM)1994 , Vol. 2 of 3, pp. 1231-1237, 1994.

    本論文は、1994年当時にはまだ概念すらなかった「オーバレイネットワーク」をATM網の上に構築するというアイデアを示し、性能評価で有効性を示した論文である。従来は、網内ではパケットの遅延をいかに小さくするかというミクロな観点で、ネットワークの品質制御を行っていたが、本提案では、データファイル(バーストデータ)というマクロな単位で、通信性能を考慮した場合には、このバーストデータ単位にてストアアンドフォワード方式で網内転送したほうが効率的であることに着眼した。このストアアンドフォワードを既存のATM方式は変更せず、ATM網上にて、Burstserverと呼ぶサービスノードでオーバレイネットワークを構築することで、実現することを提案している。

  2. Tutomu Murase, Hideyuki Shimonishi, Masayuki Murata, “Overlay Network Technologies for QOS Control,” IEICE Transaction on Communications,, Vol. E89-B No.9 pp.2280-2291, 2006.

    オーバレイネットワークを用いたQoS制御方式について述べた招待論文である。オーバレイネットワーク技術を用いたQoS制御のフレームワークを述べると共に、国内外の最新研究をサーベイし、さらに、著者らが提案しているセッションオーバレイネットワークについて述べている。これまで、QoS制御のフレームワークを体系だって述べた文献がほとんど無い中で、本論文では、低位レイヤから高位レイヤまで考慮した中継オーバレイノードの役割などについても論じており、QoS研究者のみならず、オーバレイ技術者に大いに役立ったものと思われる。本論文は、ソフトウエア試作により効果を検証しており、これによるビジネス製品化につながった。 (電子情報通信学会通信ソサエティの英文論文誌Best Tutorial Paper Awardを受賞 2007年9月)

  3. Tutomu Murase, Kosuke Uchiyama, Yumi Hirano, Shigeo Shioda, Shiro Sakata, “MAC-Frame Receiving-Opportunity Control for Flow QoS in Wireless LANs,” IEICE Transaction on Communications, Vol. E92-B No. 1, pp.102-113, 2009.

    本論文では、無線LANでの通信品質制御について議論している。無線LANの標準方式であるCSMA/CAは自律分散処理制御であるため、uplink側つまり端末からの送信トラヒックを制御する目的のためには、従来の品質制御においてでは、ユーザ端末を改造するあるいは802.11eのような優先制御パラメータを適応的に制御する優先制御の提案がほとんどであった。これに対して、本論文では、基地局(アクセスポイント)のMACフレームの送達確認(MACフレームのACK)を操作することのみで、端末には改造を加える必要無しに、端末のuplinkの通信を優先制御する方法(ROC:Receiving-Opportunity Control)を提案し、その有効性を評価している。さらに、このROC機能を持つ機材をアクセスポイントの側に設置するだけで、基地局さえも無改造で同様の制御を実現できることも示した。本論文は、基本アイデアと基本性能を示しており、その後の論文(論文誌論文3件、国際会議9件 など)で、詳細な性能評価や試作機を用いた実機評価など、実用性検証も行っている。

  4. 村瀬勉, 新熊亮一, 長谷川剛, 矢守恭子, 小口正人, 太田能, Dilip Sarkar, Dipankar Raychaudhuri, "パレート最適ネットワーク制御技術の実現にむけて ~無線・有線コグニティブ環境における ユーザを主体としたネットワーク制御~," 電子情報通信学会 CQ研究会/MoMuC研究会,  Sep. 2011.

    本論文では、パレート最適という経済学で良く使われる理論を無線通信に適応した場合に、その最適化を拡張するには、ユーザをも制御対象にすべきであることを提案している。無線通信では、ユーザと無線基地局の位置関係で通信品質が異なり、また周波数リソースの利用効率も大きくことなる。そこで、ユーザ自身の通信品質を改善するために、ユーザに移動を勧める。ただし、移動にはそれなりのコストがかかる。移動意思額(Willingness to Move)という概念でコストと品質改善のトレードオフを調査し、またインセンティブメカニズムについてのアイデアも盛り込んでいる。本研究は、1企業、7大学のコラボレーションで行われた。