研究者総覧「情報知」
情報システム学専攻
- 氏 名
- 関 浩之 (せき ひろゆき)
- 講座等
- ソフトウェア論講座
- 職 名
- 教授
- 学 位
- 工学博士
- 研究分野
- 形式言語理論、ソフトウェア基礎論
研究内容
言語ベースセキュリティ・プライバシー,弱文脈規定文法とその応用
【ソフトウェア設計検証】
安全性と信頼性の高いソフトウェアを実現するための技術、特にセキュリティ、情報保存といった特性に着目した設計検証法に関する研究を行っています。
(1)無限状態モデル検査法
ネットワークからダウンロードしたプログラムを手元の計算機上で実行するということが日常的に行われていますが、それらの中には悪意あるコードが含まれている可能性があります。JDK 等の実行時環境では、そのようなコードから情報を保護するためのアクセス制御機能が提供されています。しかし、アクセス制御をプログラムのどの部分でどのように行うのかは設計者の直観に委ねられています。そこで私達は、アクセス制御を含むプログラムが本当に安全かを検証する方法や、セキュリティ要求を満たすようにアクセス制御をプログラムに自動挿入する手法を提案し、ツールを実装してその有効性の評価も行ってきました。
(2)木言語理論とXM文書処理・変換への応用
XML文書圧縮、XML文書変換の情報保存性、XMLデータベースへの推論攻撃に対するセキュリティ耐性の研究を行っています。
これらの研究には、木言語理論を用います。文字列は1次元データですがこれを2次元に拡張したものが木表現です。文字列を扱うオートマトンや変換器を木を扱うように拡張したものが木オートマトンや木変換器です。XML文書はタグによって階層構造をもちますから、木によって自然にモデル化できます。そのことから、階層構造の制約を表すXMLスキーマは木オートマトン、XML文書処理・変換は木変換器で自然にモデル化できます。共同研究者と協力し、これらのモデルを用いて以下のテーマに取り組んでいます。
・木文法を用いたXML文書圧縮
・XML文書変換に対する問合せ保存性の判定法
・XMLスキーマの推論攻撃に対するk-安全性判定法
(3)量的概念に基づくセキュリティ・プライバシー
最近、k-匿名性、量的情報流、差分プライバシーなど、セキュリティ強度・プライバシー保全の度合を計る新しい概念が提案されています。その背景には、セキュリティやプライバシーの有無だけを調べるのではなく、外部から観測可能なデータから推測できる秘匿データの量を定量化したいという社会的要請が高まっていることが挙げられます。これらは大変新しいテーマであり、以下のアプローチでこの問題に挑戦しつつあります。
・ソフトウェア静的解析、論理式のモデル計数を用いた量的情報流の見積もり
・プライバシー保全と解析パフォーマンスの高トレードオフ実現手法
・構造化データのk-匿名化技法
【形式言語理論とその生物データ解析への応用】
多重文脈自由文法(MCFG)という文法を提案しその諸性質を解明してきました。MCFGの生成能力は文脈自由文法(CFG) よりも大きく文脈規定文法(CSG) よりも小さいこと、多項式時間構文解析可能性や言語演算に対する閉包性など、CFG のよい性質を受け継いでいることがわかっています。
さて、DNA, RNAといったいわゆる生物配列の機能の解明にはその立体構造を知ることが必須だといわれています。しかし、分子生物学における実験データは膨大で誤差も含まれており、それらから有意な情報を効率よく抽出するには優れたアルゴリズム設計が必要です。今風にいうと典型的なビッグデータ解析の問題です。
RNA にはシュードノットとよばれる重要な部分構造が含まれますが、これはCFG では表現できないけれどMCFGを使えば自然に表現できることがわかっています。そこで、MCFGの構文解析法を利用して、RNA の2次構造予測アルゴリズムを開発しツールの実装も行いました。
経歴
- 1982年3月
- 大阪大学 基礎工学部 情報工学科 卒業
- 1987年3月
- 大阪大学 大学院基礎工学研究科 物理系専攻 情報工学分野 博士後期課程修了 (工学博士)
- 1987年4月
- 大阪大学 基礎工学部 情報工学科 助手
- 1990年10月
- 大阪大学 基礎工学部 情報工学科 講師
- 1992年12月
- 大阪大学 基礎工学部 情報工学科 助教授
- 1994年4月
- 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 助教授
- 1996年10月
- 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授
- 2013年4月
- 名古屋大学 大学院情報科学研究科 教授
所属学会
- 電子情報通信学会
- 日本ソフトウェア科学会
主要論文・著書
- Yuki Kato, Tatsuya Akutsu and Hiroyuki Seki, A Grammatical Approach to RNA-RNA Interaction Prediction, Pattern Recognition, 42, 531-538, April 2009.
- Yasunori Ishihara, Toshiyuki Morita, Hiroyuki Seki and Minoru Ito, An Equational Logic Based Approach to the Security Problem against Inference Attacks on Object-Oriented Databases, Journal of Computer and System Sciences, 73, 788-817, 2007.
- Jing Wang, Yoshiaki Takata and Hiroyuki Seki, HBAC: A Model for History-based Access Control and Its Model Checking, 11th European Symposium On Research In Computer Security (ESORICS 2006), Hamburg, Germany, Sept. 2006, Lecture Notes in Computer Science 4189, pp.263-278.
- Yasunori Ishihara, Shin Ishii, Hiroyuki Seki and Minoru Ito, Temporal Reasoning about Two Concurrent Sequence of Events, SIAM Journal on Computing, 34(2), 498-513, 2005.
- Hiroyuki Seki, Toshinori Takai, Youhei Fujinaka and Yuichi Kaji, Layered Transducing Term Rewriting System and Its Recognizability Preserving Property, 13th International Conference on Rewriting Techniques and Applications (RTA 2002), Copenhagen, Denmark, July 2002, Lecture Notes in Computer Science 2378, pp.98-113.
- Naoya Nitta, Yoshiaki Takata and Hiroyuki Seki, An Efficient Security Verification Method for Programs with Stack Inspection, 8th ACM Conference on Computer and Communications Security (CCS 2001), pp.68-77, Philadelphia, Pennsylvania, Nov. 2001.
- Yasunori Ishihara, Shogo Shimizu, Hiroyuki Seki and Minoru Ito, Refinements of Complexity Results on Type Consistency for Object-Oriented Databases, Journal of Computer and System Sciences, 62(4), 537-564, 2001.
- Toshinori Takai, Yuichi Kaji and Hiroyuki Seki, Right-Linear Finite Path Overlapping Term Rewriting Systems Effectively Preserve Recognizability, 11th International Conference on Rewriting Techniques and Applications (RTA 2000), Norwich, U.K. July 2000. Lecture Notes in Computer Science 1833, 246-260.
- Yuichi Kaji, Ryuichi Nakanishi, Hiroyuki Seki and Tadao Kasami, The Computational Complexity of the Universal Recognition Problem for Parallel Multiple Context-Free Grammars, Computational Intelligence, 10(4), 431-443, Nov. 1994.
- Hiroyuki Seki, Ryuichi Nakanishi, Yuchi Kaji, Sachiko Ando and Tadao Kasami, Parallel Multiple Context-Free Grammars, Finite-State Translation Systems and Polynomial-Time Recognizable Subclasses of Lexical-Functional Grammars, 31st Annual Meeting of the Association for Computational Linguistics (ACL 1993), pp.130-139, Columbus, Ohio, June 1993.
- Hiroyuki Seki, Takashi Matsumura, Mamoru Fujii and Tadao Kasami, On Multiple Context-Free Grammars, Theoretical Computer Science, 88(2), 191-229, Oct. 1991.
- Katsuro Inoue, Hiroyuki Seki and Hikaru Yagi, Analysis of Functional Programs to Detect Run-Time Garbage Cells, ACM Transactions on Programming Languages and Systems, 10(4), 555-578, Oct. 1988.