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研究者総覧「情報知」

複雑系科学専攻

氏 名
古賀 伸明(こが のぶあき)
講座等
物質情報論講座
職 名
教授
学 位
工学博士
研究分野
計算量子化学

研究内容

分子の電子状態と化学反応の量子化学研究
 非経験的分子軌道法や密度汎関数法という第一原理からの量子化学計算法を用いて、分子の構造や電子状態、化学反応の様子を明らかにし、理論的見地から、分子設計や化学反応設計を行う際に有益な情報を得ることを目指している。こういった計算では、反応物や生成物といった安定な分子だけではなくて、実験からだけでは知ることが難しい反応中間体や遷移状態のような不安定な分子の構造や電子状態を明らかにすることができ、化学反応の難易や選択性を支配する電子的因子・立体的因子を知ることができる。また、未知の分子の性質を調べることもできる。我々は、このような量子化学計算による、1)有機遷移金属化学の素反応過程や錯体触媒サイクルなどの触媒反応機構の解明と理論設計を目指した研究、ならびに、2)種々の分子の物性の理論的解明とその解析方法についての研究を進めている。分子系の構成原子や官能基の特性が、複雑にからみあいながら、分子の個性を定め、反応の特徴を作り出していると考えられ、理論計算を通じて初めて明らかになることは多い。
1)に関しては、酸化的付加、還元的脱離、挿入のような基礎的な有機金属素反応の様子や、それらの素反応を組み合わせて構成した触媒サイクル全体の反応の様子を明らかにする理論的研究を行ってきた。その最近の研究例を図に示す。この反応では溶媒にも使われているアセトニトリル(MeCN)分子の強いCC結合が鉄シリル錯体(CpFe(CO)2(SiMe3)、Cp=C5H5、Me=CH3)によって切断される。配位不飽和中間体CpFe(CO)(SiMe3)にアセトニトリルが配位し、シリル基SiMe3がその配位アセトニトリルの窒素原子に転移した後、アセトニトリルのMe基がFe原子に転移することによってCC結合切断が実現している。このCC結合切断は、アシル基の脱カルボニル反応(カルボニル挿入の逆反応)と等電子的な反応であり、容易であることはすぐに理解できる。正電荷を持つシリル基と負電荷を持つ窒素原子の間の容易な結合生成によって、CC結合切断が無理なく進む環境が整えられたということができる。実際、シリル基を、それほど正電荷を持たないメチル基に置き換えると反応は困難になるという計算結果が得られている。このように、理論計算によって反応の因子を理解することができ、反応設計に有用な情報を得ることができる。遷移金属錯体は、中心金属が種々の酸化数や配位数をとることができ、そして配位子にも種々の置換基が存在するために分子構造や化学反応は多様性に富み、複雑な様子を示すが、理論計算によって、その反応機構を明快に示すことが可能となった例である。これ以外には、Ru(0)-ジイミン錯体とマレイン酸エステルの環化反応、Co錯体やRh錯体によるアセチレン3量化ベンゼン生成反応の反応機構、Co錯体によるアセチレン2分子とアセトニトリルからのピリジン生成の反応機構、チタナシクロペンタジエンとニトリルの反応による芳香族化合物生成の反応機構、などの研究を進めている。
2)の分子の物性については、理論計算で得られる静電ポテンシャルのトポロジー解析から、原子や官能基の電気陰性度を評価する新しい方法を提案するとともに、遷移金属錯体の配位子としてよく使われるホスフィン(PR3)の電子供与性の評価法を提案した。また、芳香族安定化エネルギーという有機化学の基礎概念について、ポリラジカルが関わる化学反応の反応エネルギーから見積もる新しい評価方法を提案した。ポリラジカルという不安定化学種を用いており、理論計算の特徴を生かした方法であるといえる。分子の構造や種々の電子的特性は分子の構成要素の複雑な相互作用によって決まってくる。この相互作用のなかで、電子移動を伴う相互作用の解析方法の開発を進めている。この方法を用いれば、分子の物性を新しい観点からみることができ、分子設計に有用である情報を得ることができると期待される。
Fe錯体によるMeCNのCC結合切断の理論計算の結果

Fe錯体によるMeCNのCC結合切断の理論計算の結果

経歴

  • 1982京都大学大学院工学研究科修士課程修了
  • 1984分子科学研究所技官、1986同研究所助手
  • 1993名古屋大学情報文化学部助教授
  • 1998名古屋大学人間情報学研究科教授
  • 2003名古屋大学情報科学研究科教授

所属学会

  • 日本化学会
  • アメリカ化学会

主要論文・著書

  1. C. H. Suresh and N. Koga, Orbital Interactions in the Ruthenium Olefin Metathesis Catalysts, Organometallics, 23, 76-80 (2004).
  2. C. H. Suresh and N. Koga, Aromaticity-Driven Rupture of CN Triple and CC Double Bonds : Mechanism of the Reaction Between Cp2Ti(C4H4) and RCN, Organometallics, 25, 1924-1931 (2006).
  3. A. A. Dahy and N. Koga, Theoretical Study on the Reaction Mechanism for the Formation of 2-Methylpyridine Co(I) Complex from Cobaltacyclopentadiene and Acetonitrile, Organometallics, 28, 3636 (2009).