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研究者総覧「情報知」

複雑系科学専攻

氏 名
有田 隆也(ありた たかや)
講座等
創発システム論講座
職 名
教授
学 位
博士(工学)
研究分野
人工生命 / 複雑系科学 / 人間行動の進化的理解
有田 隆也

研究内容

人工生命:生命性/社会性の起源と進化へのアプローチ
 一般に、科学は複雑そうに見える物や事柄の中にシンプルな規則性や秩序を見出そうと試みるものであり、複雑性はむしろ排除すべきものとして取り扱ってきたと言えよう。一方、ここ10年ほど前から次第に形成されてきた「複雑系科学」と呼ばれる新しい研究領域は、逆に複雑性そのものの解明を目的とする。複雑系科学の登場は、現代の科学が解明しようとしている対象が次第に複雑なシステムに移りつつあることを反映している。現代の科学はあらゆる分野において知の拡散が進んでおり、得られた知見同士の関係や全体像がわかりにくくなる一方である。その点、複雑系科学は特定のシステムに固有の現象を解き明かそうとするのではなく、生命、社会、経済、言語、文化などの様々な複雑なシステムに関する、より抽象的なレベルにおける統一的理解を目指すものである。
「複雑系」という言葉のもっとも基本的な意味は、システムの挙動に内在する複雑性がシステム構成要素の間の相互作用に起因するようなシステム、端的な表現に言い換えるならば、部分の和が全体を超えているようなシステムである。各要素間の非線形な相互作用の結果としての複雑系全体の振舞いは、それ自体が逆に相互作用や要素に影響するため予測が難しい。複雑系において複雑性が生じる基本的要因はこのようなミクロマクロループの存在にある。複雑系の振舞いに深く関連する現象として、典型的には、創発、自己組織化、進化などの現象が研究のターゲットとなる。複雑系科学の分野で特に頻繁に議論される創発現象は、要素間の相互作用によってより上位レベルの機能、構造、振舞いが出現する現象やその際に存在するミクロマクロループを意味する。創発の概念は、要素還元主義に対するアンチテーゼとしての理論的背景を持って、たとえば、セルオートマトンでの複雑な発生パターン、あるいは蟻の群知能などを対象として検討される。また、進化論のような生物学における理論的背景を持って、生命や知性の起源や進化、あるいは個体発生などの場面で検討される。さらに、複雑系の議論においては、観測者を想定する必要性が生じることもある。とりわけ、観測行為そのものが観測されるシステムに影響を及ぼすような複雑系の理解は取り組むべきテーマである。
以上のような動機から、私、及び人工生命ラボラトリ(通称)のメンバーは、複雑系科学、あるいはその中核的な領域を占める人工生命に関わる研究を多方面から進めている。以下に現在の研究テーマを示す。計算論的モデルを構築し、それを計算機の中の人工世界(あるいはロボット)で実現し、観察、解析することにより、生命、社会、言語などの複雑なシステムの起源や進化の理解を目指す構成的アプローチに基づいている。同時に、人工知能、自律ロボット、進化的計算などへの応用も狙っている。
・進化ダイナミクス - 生命の起源
・進化ダイナミクス - 進化と学習の相互作用
・進化ダイナミクス - 個体発生の役割
・進化ダイナミクス - ニッチ構築
・進化ダイナミクス - 遺伝子とミームの相互作用
・進化ダイナミクス - 性選択と自然選択
・進化ダイナミクス - ネットワークの進化
・人間/社会の起源 - 言語の進化と獲得
・人間/社会の起源 - 協調の進化
・人間/社会の起源 - 誤認の適応性
・人間/社会の起源 - 情報の多様性と人間の集団行動
・人間/社会の起源 - 心の理論の起源
・人工生態系
・人工生命指向型計算論
・人工生命指向型ロボティクス
・進化と創造性
 なお、各研究テーマの具体的内容については、研究室のウェブページ(www.alife.cs.is.nagoya-u.ac.jp/index.php)に多くの論文や文書を掲載しているので、それを参考にされたい。また、メールによる問い合わせも歓迎する(arita@nagoya-u.jp)。
創発型シミュレーションのイメージ

創発型シミュレーションのイメージ

 

経歴

  • 1988年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。同年名古屋工業大学工学部助手。
  • 1993年同大学工学部講師。
  • 1994年名古屋大学情報文化学部助教授。
  • 1998年同大学大学院人間情報学研究科助教授。
  • 2003年同大学大学院情報科学研究科教授。現在に至る。
  • 1995年から1996年までUCLA客員研究員。

所属学会

  • 人工知能学会
  • 日本認知科学会
  • 情報処理学会
  • 電子情報通信学会
  • 人工生命国際学会

主要論文・著書

  1. 心の理論における再帰のレベルの進化に関する構成論的手法に基づく検討,認知科学,Vol. 12,No. 3,2005.
  2. Cyclic Coevolution of Cooperative Behaviors and Network Structures, Physical Review E, 77(2), 021911 (7 pages), 2008.
  3. 心はプログラムできるか,ソフトバンク クリエイティブ,2007.
  4. 生物から生命へ,筑摩書房,2012.