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研究者総覧「情報知」

複雑系科学専攻

氏 名
青木 摂之(あおき せつゆき)
講座等
生命情報論講座
職 名
准教授
学 位
博士(理学)
研究分野
生物リズム / 遺伝子ネットワーク / 分子生物学

研究内容

情報分子の相互作用による生命機能の生成と創出
■研究の概要■
生命には様々な周期の振動がみられる。なかでも約24時間周期の「概日リズム」は生物種を問わず普遍的にみられ、特に重要な例と捉えられる。各種のモデル生物を用いた研究によれば、概日リズムの発振機構「概日時計」は、複数の「時計遺伝子」又はそれらがコードする「時計蛋白質」が織りなす制御ネットワークから成るとされる。従って概日時計は、情報分子の相互作用による生体機能の生成を研究するうえで格好の題材となる。このラボでは、Physcomitrella patensP. patens、スギゴケの仲間)を用い、概日時計の分子機構を研究する。P. patensは、遺伝子ノックアウトを適用できるため遺伝子機能の解析に適する。
ゲノム(/ポストゲノム)プロジェクトが多様な生物種で進行している今、生物の進化をゲノムの変化の観点から理解することが可能になりつつある。植物では、概日時計はアラビドプシスやイネなどのいわゆる「高等植物」で精力的に解析されてきた。P. patensは数億年前にそれらの植物と分岐し、最初に陸上に適応した植物の特徴を留める原始的な種である。2004年に始まったP. patensのゲノムプロジェクトは順調に進行し、今年中にもドラフト配列がまとまるとみられている。P. patensの成果と、高等植物や他の生物種での知見、そしてそれらの豊富なゲノム情報を比較・解析し、概日時計の進化をゲノムに刻まれた遺伝子/蛋白質ネットワークの変化として理解する。
当研究室では、このように概日時計をモデルとして生体情報分子ネットワークの機能発現とその進化を探求する。これと並行し、概日時計に限定せず、理論研究者との共同によって各種の情報分子 - あるいはその集合体 - の生命機能創出と進化について、in vitro(試験管内)の系も含めて、有効な実験系の探索と確立を試みたい。
■現在のテーマ(主要なもののみ)■
(1) P. patensの時計遺伝子群が織りなすネットワーク構造の同定と解析
植物を含む真核生物の時計機構は、時計遺伝子群の発現制御ネットワークに内在するネガティブフィードバック回路である、とする考え方が根強い。時計遺伝子とは概日時計の構成要素遺伝子のことであり、アラビドプシスにおいてはcca1lhy、そしてprr1toc1)等の遺伝子が候補として分離されている。Alabad(2001)は、これら三遺伝子の間の転写制御に基づくネガティブフィードバック回路が植物の時計機構ではないかと論じている。当研究室ではP. patensの時計遺伝子オーソログを分離し、それらの発現ダイナミクスと相互作用を明らかにする。また、P. patensの実験上の利点を活用し、遺伝子ノックアウトによる機能解析を並行して行う。これらの解析により、Alabad仮説の検証を含め、時計遺伝子間ネットワークに基づく機能発現と時計機構との関連を探る。また、P. patensの豊富なゲノム配列情報を利用し、各種シグナル伝達系の調節因子や転写調節因子にみられるドメイン構造を手がかりに、新規の時計遺伝子候補の探索とその機能解析を行う。
さらに、各種モデル植物のゲノムを比較し、概日時計機構の進化と時計遺伝子ファミリーの構造と機能の多様化、メンバー遺伝子間のネットワーク構造の変化との関連性を探る。
(2) 核から葉緑体へ時間情報を伝える仕組みの解明
葉緑体は光合成細菌の細胞内共生により生じた半自律的オルガネラである。従って葉緑体には独自のゲノムが存在し、そこには100-200程度の遺伝子群がある。それらの幾つかは概日リズム発現を示すが、核-細胞質に存在するらしい概日時計がいかに葉緑体遺伝子を制御するのかは未解明である。そこで、核にコードされる葉緑体移行型の転写調節因子シグマの機能に注目し、概日時計由来の時間情報が葉緑体ゲノムへと伝達される分子機構を解析する。
■今後の展開■
今後は、ますます豊富になるゲノム/トランスクリプトーム/プロテオーム関連の情報を活用し、概日時計の機能発現とその進化について包括的な理解を目指したい。また、情報分子の相互作用による生体機能の創出と進化を実現するための、新たな実験系の確立に取り組みたい。
自律振動「概日リズム」が生じる分子機構のモデル

自律振動「概日リズム」が生じる分子機構のモデル

経歴

  • 平成8年3月京都大学大学院理学研究科動物学専攻博士課程修了・理学博士号取得(理博第1717号)
  • 平成8年2月名古屋大学大学院人間情報学研究科に助手として着任; 平成15年4月名古屋大学大学院情報科学研究科講師に昇任、現在に至る

所属学会

  • 日本時間生物学会
  • 日本遺伝学会
  • 日本植物生理学会
  • 日本植物学会

主要論文・著書

  1. Pseudo-Response Regulator (PRR) homologues of the moss Physcomitrella patens: Insights into the evolution of the PRR Family in land plants. DNA Research 18(1):39-52 (2011)
  2. Heterologous expression and functional characterization of a Physcomitrella Pseudo Response Regulator homolog, PpPRR2, in Arabidopsis. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 75(4):786-789 (2011)
  3. Functional characterization of CCA1/LHY homolog genes, PpCCA1a and PpCCA1b, in the moss Physcomitrella patens. Plant Journal 60(3):551-563 (2009)