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研究者総覧「情報知」

計算機数理科学専攻

氏 名
小澤 正直(おざわ まさなお)
講座等
情報数理モデル論講座
職 名
特任教授
学 位
理学博士
研究分野
数理物理学 / 数理論理学 / 科学基礎論 / 量子情報 / 量子計算 / 量子測定 / 量子集合論 / 量子基礎論
小澤 正直

研究内容

量子情報の研究
研究の背景
情報伝送・情報処理のあらゆる過程は物理学の法則に支配されている。従来の情報システムを記述するためには、古典物理学の法則で十分であったが、ムーアの法則と呼ばれる情報処理システムの集積化に関する経験則から、近い将来に量子物理学の法則に基づく情報システムが必要とされると予測されている。量子力学の発見により、物理的性質を測定し、認識するわれわれの能力が不確定性原理によって制約されていることが明らかになった。それから半世紀を経て、レーザーの発見により、性質の不確定な量子状態を制御し、情報技術に応用することが可能になった。近年になって、この量子状態を媒体とする量子情報の利用によって、超高速な量子コンピュータや無条件安全な量子暗号などの新しい情報技術の可能性が拓かれつつある。量子情報の体系的な数学理論を構築するために、以下の研究を進めている。

研究テーマと研究内容

量子測定:量子測定理論は、量子情報の研究すべての分野の基礎を担う理論である。量子測定の概念を数学的に特徴づける問題は、1932年に発表されたvon Neumannの研究以来の課題とされてきた。1984年の論文で、量子測定の概念が作用素環上の完全正写像値測度(インストルメントと呼ばれる)によって完全に数学的に特徴づけられることを示して、量子測定理論の基礎を確立した。1988年にインストルメントの理論に基づいて、重力波検出限界に関するYuen-Caves論争を解析し、標準量子限界を打破する測定のモデルを構築して論争を解決に導いた(Nature 331, 559 (1988), News and Viewsに解説記事)。この研究で、1927年にHeisenbergが提唱した測定誤差と擾乱に関する不等式の不備が明らかになり、2003年に測定誤差と擾乱に関して普遍的な関係を表現した不等式(普遍的不確定性原理)を発表した(日経産業新聞2004年1月15日、日経サイエンス2004年9月号で取材報道)。また、この不等式を利用して、Wigner-Araki-Yanaseの定理を定量的に一般化し、保存則の下での測定精度の限界を表す不等式を発見した。現在、これらの成果に基づいて、測定理論、量子情報理論、量子力学の解釈問題を研究している。
量子通信:1940年代にシャノンによって古典的電磁場を媒体とする通信の通信路容量が明らかにされた。しかし、1960年初頭のレーザーの発見に伴い、Gordon等によって量子的電磁場の法則から新しい量子的通信路容量の公式が提案されたが、その証明は未解決問題として残された。1993年にYuenとの共著論文で、この問題を解決し、電磁場の量子通信路容量の研究のさきがけとなった。2004年から、堀田と共同で量子チャネルに含まれる雑音を表すパラメータの推定理論を展開し、2006年から2008年にかけて、総務省戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)の下で新しい量子認証プロトコルの開発を行っている。
量子計算:1980年代にDeutschによって量子Turing機械と量子回路という量子計算モデルが提案されると、1994年にShorによって、公開鍵暗号の安全性を覆す量子アルゴリズムが発見された。2002年の西村との共著論文では、量子計算機のアルゴリズム的性能限界を究明する目的で、量子Turing機械と一様量子回路族の計算量理論の基礎を確立した。また、量子計算機の物理学的性能限界を究明する目的で、保存則に由来する量子計算素子の実装精度に関する量子限界を導く理論的方法を開発し、CNOTゲート、Hadamardゲートなどについて、与えられた保存則の下で実装精度の量子限界を明らかにした。これらの成果に基づいて、Gea-Banacloche、河野、唐澤らと量子コンピューターの実現及び限界性能の研究を行っている。
量子集合論:1980年代に集合論における強制法を作用素環論に応用する研究を展開して、1952年以来の I 型環の構造に関するKaplansky予想を解決した。超準解析学により、小嶋と超有限Heisenberg群のユニタリ表現論を確立し、電磁場の位相作用素の問題の解決を導いた。これらの成果に基づいて、山下と無限小解析学の数理物理学への応用を研究している。2007年に発表した論文では、任意のvon Neumann環の射影束を論理とする量子集合論を展開し、ZFCの定理から量子集合論で成立する命題を構成する移行原理を証明し、量子物理量が量子集合論で定義される実数に完全に対応することを示して、量子集合論が量子力学の解釈を拡張する極めて有力な理論的道具であることを明らかにした。例えば、非可換な場合を含む量子物理量の値の同一性の概念は、これまで定式化の困難な概念とされてきたが、量子集合論で定義される相等関係によってそれが正しく表現されることを示した。これらの成果に基づいて、量子集合論により量子力学の基礎概念を再構築し、量子力学の新しい解釈を確立する課題に取り組んでいる。

経歴

  • 1979:東京工業大学大学院博士課程修了、理学博士
  • 1986-1995:名古屋大学助教授
  • 1989-1990:Harvard University, Visiting Scholar
  • 1995-2001、2008-現在:名古屋大学教授
  • 2001-2008:東北大学教授

所属学会

  • 日本数学会
  • 科学基礎論学会
  • 米国物理学会

主要論文・著書

  1. M. Ozawa, Quantum measuring processes of continuous observables, Journal of Mathematical Physics 25 (1984), 79-87.
  2. M. Ozawa, Uncertainty relations for noise and disturbance in generalized quantum measurements, Annals of Physics 311 (2004), 350-416.
  3. M. Ozawa, Transfer principle in quantum set theory, The Journal of Symbolic Logic 72 (2007), 625-648.