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研究者総覧「情報知」

社会システム情報学専攻

氏 名
戸田山 和久(とだやま かずひさ)
講座等
情報創造論講座
職 名
教授
学 位
文学修士
研究分野
科学哲学 / 科学技術社会論 / 技術者倫理

研究内容

科学と技術と社会をフィールドにした生きた哲学の研究
科学哲学をベースに4つのテーマで研究を進めている。
(1) 数学の哲学における唯名論と数学の応用可能性の問題
この世界にあるのはモノ(物理的対象)だけだという世界観がある一方、数・情報など、科学には抽象的な対象がたくさん現れる。そこで、こうした抽象的対象を「モノだけ世界観」にどのように描き込むかという存在論的問題が生じる。
数や関数などの数学的対象については、それらの文字通りの存在を認めようとする立場(プラトニズム)と、それらは存在者とは認めることができないとする立場(唯名論)が対立してきた。たとえば、ゲーデルは前者、ヒルベルトは後者の立場をとっていると言われてきた。
私の研究テーマは、唯名論の立場をどれくらい擁護できるかというものだ。一言で言えば、「電子はあるが数はない」と主張するための根拠は何か、である。しかし、こうした唯名論的立場をとる者にとって数学の応用可能性の問題は避けて通ることができない。数はないがモノはある。だとしたら、なぜ数に言及することが他ならぬモノの研究にこれほど役に立つのか?
こうした問いに、哲学と数学基礎論とが未分化だった19世紀末から20世紀初頭にかけての数学の基礎をめぐる論争をフィールドとしてとりくんでいる。
また、こうした研究から得られた知見を、もう一種類のわけのわからない対象である「情報」にどれくらい適用できるかを今後の課題としている。
(2) 認識論の自然化プロジェクト
知識は人間の専売特許ではなく、他の生物にも見られる自然現象であり、情報の流れとしての世界の一コマと考えることができる。こうした視点から、アプリオリズムと基礎づけ主義に偏ってきたこれまでの哲学的認識論の問題設定を捉えなおして、認識論を自然科学の一部に埋め込み、知識生産のありかたの改善という認識論が本来もっていた「ナレッジ・サイエンス」としての目標を回復させようと努力している。
具体的には、MOT、ナレッジマネジメント、図書館情報学、科学技術政策論、サイエントメトリクス、認知科学における科学的発見の研究など、さまざまな分野で模索されている「知識生産の改善のための研究」を「統合」とまではいかなくとも、相互交流と理解を可能にする基盤を提供できるような認識論の構築を目指している。
(3) 科学におけるモデルの役割
大目標は、「科学はわれわれと独立の世界の秩序を解明することを目的としており、部分的にそれに成功している」という考え方、すなわち科学的実在論を擁護することである。しかし、この立場は哲学的議論においてはどちらかと言えば、旗色が悪い。
科学的実在論を擁護しにくくしているものは、実在論者・反実在論者が共有している科学についてのある思いこみだ。それは、科学を文の集まり、典型的には公理系として表象し、それらの文に真理ないし高い蓋然性を付与するのが科学だ、という科学のとらえ方である。
私はこうした科学のとらえ方に対するオルターナティヴとして、現実に重要な点でよく似た「モデル」をつくるのが科学の主目的であるという科学観を対置することによって、科学的実在論を擁護することを目指している。このためには、科学においてモデルが果たす役割を正確に押さえることが重要だ。計算論的認知科学における古典主義的モデルとコネクショニスト的モデルの論争をフィールドに研究を進めている。
(4) 技術者倫理とその教育をめぐる科学技術社会論的研究
技術者は専門職として、顧客や雇い主だけでなく市民一般に対して社会的責任を負っている。この余分な責任の根拠は何か。そうした責任を技術者がきちんと果たしていけるような教育や社会的支援のシステムはいかにあるべきか、という問題を、倫理学だけでなく、より広く科学技術社会論的な視点から研究している。哲学者の独善にならないよう、現場の技術者、技術士会のメンバーと交流しながら研究を進めるとともに、NSPE(全米技術者協会)などの組織への訪問調査なども行っている。
NSPEに突撃取材する私(ウソ、アポはちゃんととりました)

NSPEに突撃取材する私(ウソ、アポはちゃんととりました)

 

経歴

  • 1989年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学
  • 1989年 名古屋大学教養部講師
  • 1993年 名古屋大学情報文化学部助教授
  • 1998年 名古屋大学高等教育研究センター助教授
  • 2003年 名古屋大学情報科学研究科教授

所属学会

  • 科学哲学会
  • 科学技術社会論学会
  • 日本哲学会・科学基礎論学会

主要論文・著書

  1. 『科学哲学の冒険』,NHKブックス,2005年.
  2. 『誇り高い技術者になろう:工学倫理のススメ』(共編著),名古屋大学出版会,2004年.
  3. 『知識の哲学』,産業図書,2002年.